大判例

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東京高等裁判所 平成元年(う)543号 判決

本件は,教会に出入りしていた被告人が,牧師の長女で当時5歳の被害者を知人の留守宅に連れ込み,わいせつ行為をした上これを殺害し,死体を天井裏に隠したという事案である。

記録を検討すると,被告人は,自己の性的欲望を満たすために本件わいせつ誘拐,強制わいせつの犯行に及び,その発覚をおそれて被害者を殺害し,これを隠蔽するため死体を遺棄したもので,犯行の動機に酌量の余地は全くない。そして,誘拐,わいせつは,予め連れ込む場所,誘拐方法,ガムテープを使うことなどを考えた上,幼い被害者が被告人になついているのを利用し,甘言を用いて誘い出し,(中略)ガムテープを口の周りや後ろ手にした両手に巻きつけて抵抗できないようにした上,パンツを引き下ろし,両足を無理に開いて陰部を手指で弄び,股間に陰茎を挟んで射精するなどしたという計画的で残酷な犯行であり,殺人,死体遺棄は,仰向けに寝かせた被害者の鼻と口を両手でふさぎ,(中略),更に殺害の目的を達するため毛布をはずし力を込めて布団の上から強く顔を押さえ続け,必死にもがき苦しむ幼い被害者を遂に窒息死させ,その死体を下半身むき出しで手や顔にガムテープを巻きつけた無残な姿のまま天井裏に押し込んだという残酷かつ非道な犯行であって,いずれの態様もはなはだ悪質である。

何の罪も落度もないのに,なついていた被告人に突然襲われ,耐え難いいたずらをされた上,生命まで奪われた幼い被害者の驚き,恐怖,苦痛,怒り,無念な心情は想像を絶するものがあり,残酷でいまわしい犯行によって最愛の一人娘を失った両親の悲しみや怒りには計り知れないものがある。また,(中略),本件が付近住民や幼児を持つ親,更には世間一般に与えた影響も深刻である。

これに加えて,被告人が中学時代から約10回にもわたって女児に対する性的ないたずらを繰り返し,その態様が順次深刻かつ悪質化していたこと,被告人の人格に執着性,即行性,社会的視野の狭さ,共感性の不足,自己中心性などの問題があること,(中略)など,その犯罪性向の根深さを示す諸事実をも併せ考えると,被告人の刑責は極めて重大である。

原判決は,被告人に有利な事情として,犯行当時19歳と5か月の未成年者であったことを挙げているが,未成年といっても成年間近で,記録上それ相応の人格的成熟をうかがうことができる点を考慮したのかどうか判文上明らかでない。また,誘拐,わいせつの計画はその日の思いつきをつなぎあわせたものに過ぎないなどといっているが,前記犯行が性的欲望に駆られた衝動的なものであることを考えれば,その計画を前記のように評価してこれを有利な事情とするのは理解し難い。更に,殺害自体に計画性は認められず,死体遺棄も,死体を天井裏に放置しておくだけで発見されることはないと考えるなど,その場しのぎの犯行であったと認められる旨説示するが,被告人は強制わいせつを計画した際,被害者が騒いだり,なだめられないときには殺すしかないという考えが浮かんだにもかかわらず,そんなに騒ぎ立てることはないだろう,嫌がっても後でなだめれば大丈夫なのではないかと楽観的に考えて犯行に及び,実際には被害者が大声で泣いたり暴れたりしたので,このままでは被告人の行為を父親に話すと考えて殺害を決意したというのであって,殺意の形成に至った前記の経過及びその後の執拗なまでの犯行態様に鑑みると,事前に殺害を計画していなかったことを過大に評価すべきではない。また,被告人の供述によると,死体を天井裏に隠すことは,まだ外が明るく人目にふれないで運び出せる状態でなかったので思いついたが,見つかるのではないかという不安もあったというのであって,その場しのぎの犯行ではあるが,これが被告人に有利な事情であるとするのは当たらない。そして,被告人の一連の行為のなかに見通しの甘さ,短絡的な思いこみ,事の重大性の認識の無さなど,未熟な人格を看取することができる旨説示しているが,被告人の人格に未熟な面のあることは否定できないけれども,関係証拠によると,犯行を決定づけた被告人の人格面の問題が未熟さだけを背景にしたものとは考えられない。このように,原判決が被告人に有利な事情として指摘するところには直ちに首肯し難い点が多く,その判断には誤りがあるというほかない。

(中略),被告人が犯行当時,すでに成人に近く相応の成熟を遂げていたとはいえなお未成年であったこと,従って人格に未熟な面のあったこと,過大に評価はできないにしても,殺人が事前に計画して行われたものではなかったことのほか,被告人が本件を他人事でないものとして受けとめ,一応反省していると認められること,被告人の両親の監護にも問題があったこと,両親も責任を感じてそれなりの慰謝の努力をしていることなどの(中略)事情を最大限考慮斟酌してみても,被告人の刑責の重大さに鑑みると,本件が有期の懲役刑をもって処断すべき事案であるなどとは到底考えられず,原審の量刑は著しく軽過ぎて不当である。

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